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神戸家庭裁判所 昭和42年(家)1197号 審判 1968年9月02日

申立人 山口初江(仮名)

右承継人 山口富夫(仮名)

被相続人 真辺祐一(仮名)

主文

被相続人(亡)真辺祐一相続財産の別紙目録記載の物件および金員を申立人山口初江承継人山口富夫に分与する。

申立人山口初江承継人山口富夫は金八三万三、〇〇〇円を昭和四三年九月末日限り相続財産管理人熱田昭治に支払え。

同人において前項所定の期日までに上記金員の支払を履行しないときは、第一項による財産の分与を受ける権利を失い、改めて当裁判所が定める金員を分与する。

理由

本件申立の要旨は「申立人山口初江は、被相続人(亡)真辺祐一の亡母イトの妹であるが、被相続人は昭和二五年一〇月以来てんかん兼精神薄弱で入院療養中昭和三六年三月五日兵庫県○○郡○○町○○精神病院で死亡した。同人の遺産としては別紙目録記載物件があるが相続人がいない。申立人は、昭和二六年頃それまで被相続人の面倒を見ていた姉大橋もとが他県に移住して以来、被相続人のために身近に居る唯一の身寄りとし身上財産上一切の世話に当つた。被相続人には別紙目録記載の家屋があつたが、その当時は賃料も不払や延滞で満足な収入が得られない状態で放置されていたので、被相続人の入院費用も生活保護法による医療扶助を受けていたが、申立人は夫山口春雄の協力のもとに家賃収入の漸増確保をはかり、それをもつて入院費用の一部負担金として毎月民生安定所へ納付する等の手続に当りながら、すべて家族と変らない世話をしてきた。このように申立人は被相続人と特別の縁故があつた者であるから、相続財産全部を申立人に分与を求めるため本件申立に及んだ」というのである。

申立人山口初江はこの申立をした後昭和四三年四月一〇日死亡し、二男富夫が相続して承継人となつた。

山口初江、山口春雄の各供述、家庭裁判所調査官斎藤素子の調査報告書中北川新治の供述記載によれば申立にかかる事実が認められるので、申立人は被相続人と特別の縁故があつた者と認めてよい。

そこで相続財産分与の程度について考える。被相続人は、昭和二五年一〇月一三日から昭和三六年三月五日死亡に至るまで兵庫民生安定所から医療扶助を受けており、同所長の保護決定通知書写、入院先病院長の各回答書の記載を綜合すると、入院中の所要費用は合計一六九万九、二九九円であり、そのうち二二万七、四〇七円を自己負担金として納入していることが認められるから、その差額一六六万七、五四七円に及ぶ医療扶助を受けていたことになる。

一方相続財産たる別紙目録記載物件は、鑑定人近藤正夫の鑑定によれば借地権価額を含めて合計三七八万九、〇〇〇円である。ただし同物件は、地主、借家人数名に及びその権利関係複雑で現実の売買可能性およびその価格については予測困難な状況にある。そして被相続人死亡後のこれら物件の賃貸料収入から地代、税金、諸費用を控除した昭和四三年七月末日現在高は三四万七、八八一円である。

被相続人が今日これだけの相続財産を遺すことができたのは、申立人らの維持管理によるところもあるが、同時に上記のような医療扶助が得られた結果でもある。そうすれば、すくなくとも前記扶助額の半額に相当する八三万三、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)は国庫に帰属させて社会に還元するのが相当である。

そこで申立人をしてこの金額を負担させ、申立人がこれを支払うことを条件として同人に別紙目録記載の相続財産(物件及び金員)を分与することとし、金員支払の方法を主文第二項のとおり定める。

ただし申立人において期日までにこの金員の支払を履行しないときは、上記財産の分与を受ける権利を失うものとし、この場合には改めて当裁判所が定める金員を分与すべきものとする。

よつて相続財産管理人熱田昭治の意見をきいたうえ主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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